Oi, Hazure Sukiru da to Omowareteita “Chiito Koodo Soosa” ga Bakemono Sugiran da ga

Chapter 109: 109 The Truth of Dudley


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「くぉぉおおおおおおお!!」

フォムスが狂気の大声をあげる。

両腕を大きく広げ――天を仰ぎ――この世のすべてを恨んでいるかのような胴間声(どうまごえ)だった。

さすが、影石で強化されているだけはあるか。

まだまだピンピンしているな。

「許さぬ! 許さぬぞ、アリオス・マクバ!!」

そしてその狂気の瞳が、ひたと僕に据えられた。

――ありゃ、やばいな。

完全に我を失ってる。

強大な力を得たのと引き替えに、人格に悪影響が及んでいるのかもしれないな。あいつと初めて会ったときは、もっと知的な人物に見えたのだが。

「ハァァァァアア!」

フォムスは再び影石を高く掲げると、先ほどと同様、多くの魔力を流し込んだ。

また自分を強化するつもりか――!

咄嗟に構える僕に向けて、フォムスは静かに右手を突き出す。そして次の瞬間、僕はかっと目を見開いた。

スキル発動。原理破壊。

――――――

《原理破壊一覧》

・飛翔

・転移

――――――

選択する能力は《飛翔》。

今回はこれが役立つはずだ。

僕は瞬時に天空に浮かび上がると――

ボォォォォォオオオ!!

コンマ一秒の差で、元いた場所に強烈な暴風が発生した。しかもかなりの魔力だ。あれに呑み込まれれば、間違いなく大ダメージは必須だろう。

「あれは風魔法……しかも上級魔法か」

あの威力から察するに、かなり高度な魔法だと推察できる。

だがフォムスは純粋な剣士だったはず。

それが急に上級魔法を使えるようになったということは――あれも影石の影響か。僕のチートコードに負けず劣らず、あれも常軌を逸してるな。

「ぐぬ……」

僕を見上げながら、フォムスが憎々しげに口元を歪ませる。

「無礼者めが! この私を頭上から見下ろすな!!」

フォムスの風魔法が再び発動。

今度は自分自身に風を放ったようだな。

「誤算だったなアリオス・マクバ! 空を飛ぶくらい、私には造作もないことだ!」

風に乗ったフォムスが、勢いよくこちらに突っ込んでくる。

――速い。

かなり高威力の風魔法を使っているんだろうな。フォムスは瞬く間に僕との距離を詰めてきた。

ガキン! と。

差し向けられた刀身を、僕は事もなげに受け止める。

そして。

「そらそらそらそらぁ!!」

ガキンガキンガキン!!

そのまま僕とフォムスは空中で剣戟を繰り広げた。

あいつの特殊スキル《万物反射》はかなり厄介だが、転移もしくは無敵時間(極小)を使えば切り抜けられる。決して勝てぬ相手じゃない。

「見える! 見えているぞ! アリオス・マクバ!」

狂気の笑声を発しながら、フォムスは僕に剣を振るい続ける。

僕の動きを視認できていることがよほど嬉しいらしい。

その表情は勝利を確信していた。

――その油断が命取りだ。

「せあああああっ!」

雄叫びをあげつつ、僕は初めて本気を出す。

淵源流、一の型。

真・神速ノ一閃。

もちろん《無敵時間(極小)》の発動は忘れない。これがなければあいつの《万物反射》によってことごとく弾き返されてしまうからな。

「な、にっ……!」

慌てたように目を見開くフォムス。

――だが、もう手遅れだ。

僕の剣はフォムスの左腕を的確に捉え、その衝撃によって奴から影石が落ちていく。

「し、しまっ……!」

「させるか!!」

すぐさま影石を確保しにいこうとするフォムスだが、もちろんそうはさせない。

《原理破壊》を発動し、《転移》を使用。

これがあれば、基本、追い抜かれることはない。

「……せいっと」

地上に降り立ちつつ、僕は影石を右手に確保する。

――あなたは今頃、謎の宝石について悩んでおられるでしょう。ですがそれはあなたが持っていてください。あなたが持っていれば、原則(・・)は暴発しないはずです――

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かつての女神の助言通り、僕が影石を握った途端、漆黒の波動は見る見るうちに収まっていった。

これでもう、フォムスが強化されることはないだろう。これ以上未知の能力を授けられたら、さすがに厄介である。

「波動が……消えた……。馬鹿な……」

目をくわっと見開き、身体をわななかせるフォムス。

「影石を制御するとは……。神にしかできぬ所行を、なぜ貴様が……!!」

「さあな。どうだか」

それにしても――この影石は他のものとはちょっと違うな。

感じる魔力が段違いだ。

もしかしたら、影石にも質の差があるのかもしれないな。これまでも影石の使用者とは何度も戦ってきたが、フォムスだけ格段に強かった。

――ま、そのへんの考察は後回しでいいだろう。

僕は影石を懐にしまうと、改めてフォムスと対峙する。

ちなみに現在は僕もフォムスも地面に降り立っている。影石を追いかけた際、自然に地上に着地した形だな。

「待ってくれ」

そんな僕の肩を、後ろから叩く者がいた。

白銀の剣聖――ダドリー・クレイスだ。

「おまえに全部やらせるわけにはいかねえ。俺も……いくぞ」

「ダドリー……。戦えるのか、その姿で」

全身傷だらけ。服はボロボロ。

額から流れる細い血液が、ダドリーの頬をゆっくり流れている。

それでも戦うと。

ダドリーはそう言ったのだ。

「はん、当たり前だろうが」

そう言いながら、いつもの憎たらしい笑みを浮かべるダドリー。

「この俺を誰だと思ってやがる。最強の《白銀の剣聖》――ダドリー・クレイスだ」

「はは……そうか」

僕はふっと笑いながら、チートコード操作を起動する。

選ぶ能力は《対象者の攻撃力の書き換え(小)》。これを用いて、ダドリーの攻撃力を4倍に引き上げた。

「なっ……なんだよ、この力は」

「おまえの攻撃力を4倍にした。これで大きなダメージを与えられるはずだ」

「よ、4倍ぃ!?」

ダドリーは素っ頓狂な声を響かせてから、数秒後、フォムスに目を向けながら呟いた。

「なあアリオス……。あいつにコテンパンにされて、初めて気づいたことがある」

「気づいたこと……?」

「ああ。俺に家族はいない。理由はわからねぇが無惨に捨てられてよ……その次に生まれた子どもは、すくすくと親に育てられてるって聞いた」

「…………」

「だから俺は無意識のうちに求めてたのかもしれねぇ。家族のように甘えられる存在と……遠くで暮らしてる《兄弟》をな」

「兄弟……」

そうか。

不本意ではあれど、僕とダドリーは兄弟弟子の関係にあたる。

そこにダドリーはなんらかの意味を見いだしていたということか……?

初めて聞くこととなった、ダドリーの本音だった。

「つもる話は後にしよう。いまは、あいつを――」

「ああ。わかってんさ」

僕とダドリーは改めてフォムスと対峙する。

「ぬああああああっ!!」

そのフォムス・スダノールは、影石を失ったことで大恐慌に陥っていた。さらに双眸を血走らせ、身体をぶるぶる震わせている。

「許さん! 許さんぞ若造どもが! 容赦なく叩き潰してくれる!!」

「へっ、やってみろよバーカ! マクバ流は破邪顕正の剣……てめぇなんざに負けるかっ!!」

ダドリーは高らかに叫ぶと、僕と視線を合わせ。

そして僕たちは同時に駆けだした。

――淵源流。

――マクバ流。

真・神速ノ一閃――!!

先祖ファルアスより受け継がれし伝説の剣技でもって、僕たちはフォムスに突撃していく。

二人とも同じ流儀であるためか、互いの呼吸はぴったりだった。

「無駄だ無駄だァ!!」

高らかに叫びじゃくるフォムス。

それと同時に奴のスキル《万物反射》が発動される。

「かっ……!!」

《無敵時間(極小)》を持たないダドリーだけが、大きく後方に吹き飛んでいく。

だがその表情は――どこか満足そうだった。

「後は頼んだぜ――アリオス!」

「ああ。任せておけ!!」

淵源流。一の秘剣。

――真・鳳凰剣。

瞬間、華麗に舞う鳳凰の姿が、フォムスの姿を丸ごと呑み込んだ。

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