Oi, Hazure Sukiru da to Omowareteita “Chiito Koodo Soosa” ga Bakemono Sugiran da ga

Chapter 44: 44 Ahead of Kensei.


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「ここは……?」

目覚めたとき、僕はやはり見慣れぬ場所にいた。

王城……? だろうか。

けれども、現代のアルセウス王城とはどこか違う。装飾の配置も微妙に異なっているような。

加えて、一緒にいたはずのレイやレミアもいない。

その代わりに――またも彼(・)がいた。絶対に会えるはずのない、初代剣聖ファルアス・マクバが。

「女神よ……どうですか。やはり避けられぬ運命ですかな」

「ええ。人の子ではさすがに不可能でしょう」

そう返答するのが、驚くべき美貌を備えた女性。心なしか、彼女の周囲を儚げな光が包んでいる。

というか、女神って……

嘘だろ?

おとぎ話に登場する、女神ディエスのことか?

「ま、致し方ありませんね」

女神と呼ばれた女性はどこか悟った表情で呟く。

「《転生術》は元より禁忌の術。それに手を染めるくらいならば、後世の子に未来を託すのが妥当でしょう」

「後世の子……。やはり、私の子孫ですか」

「ええ。あなたには猛き剣士の血が流れています。それを受け継ぐ子孫も、必ずや才に恵まれるでしょう」

「《チートコード操作》……でしたか。理(ことわり)を超えた力を与えるからには、精神的に熟した者である必要がありますな」

「ええ。ですからこのスキルを授けるのは、マクバ家で最も精神的に優れた者に限定します」

「……そうですな。《剣聖》の名をいいように扱う馬鹿者が現れんとも限りません」

そして女神はなんと、僕のほうへとくるりと振り向いた。

その表情は、どこか物憂げで。

「ふふ……。数千年後には、この光景をあなたの子孫が見ていることになるんですね。私には、あなた(・・・)がどんな名前なのかもわからない」

「あの」

意を決して問うてみる。

「すみません。……僕のことが見えているんですか?」

だが返事はない。

やはり僕は《映像》だけを見せられているようだ。数千年前、女神と初代剣聖がつくりあげた謎のやり取りを――

そして……数秒後。

女神は、そっと僕に向けて手を伸ばす。

「ファルアスの子よ。あなたは現在、きっと苦難を強いられているでしょう。ファルアスの子にも関わらず、授けられたのは前例のないスキル。周囲からはガッカリされたかもしれません」

「っ…………」

痛いところを突かれた。

「でも、覚えていてください。あなたは誰よりも素敵で……誰よりも強いのだと」

「ふふ、では私からも一言」

初代剣聖ファルアスも、僕の瞳をしっかり見据えた。

「我が子孫よ。おまえはきっと、いままで足掻き苦しんできただろう。だが忘れるな。おまえには――私たちがついている」

なんだろう。

僕のことは見えていないはずなのに、心を込めて訴えてくるような……

ほろり、と。

僕の瞳を一筋の滴が伝う。

実家を追放されたことで傷ついた心が、すこしだけ癒された気がした。

「あともうひとつ」

言いながら、ファルアスが悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「我が子孫よ。もし親族に不当な扱いをされたのであれば、思いっきり叩きのめしてしまえ! そのほうが当人のためにもなる」

はは。

思いっきりか。

もうマクバ家とは関わりを持たないと決めたけれど……まあ、悪名高いダドリーのことだからな。今後、なにをしてくるかもわからない。

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「私からもひとつ」

女神も僕に向けて口を開いた。

「あなたは今頃、謎の宝石について悩んでおられるでしょう。ですがそれはあなたが持っていてください。あなたが持っていれば、原則(・・)は暴発しないはずです」

……そうなのか。

たしかに、さっき暴発したときはレミアが持っていたからな。

少なくとも、昨晩では何事も起こらなかった。

……というか、すごいな。

この二人、僕の道に応じてヒントをくれてるのか。女神と初代剣聖――その名は伊達ではない。

だが、いつまでもこの時間は続かない様子。

女神は切なそうに、見えていないであろう僕を見つめた。

「……そろそろ時間切れですね。幸運を祈っています。あなたの道に、幸あらんことを」

「なあに大丈夫でしょう。私の血を引いているのですぞ」

ファルアスは快活に笑い、同じく見えていないはずの僕に片腕を差し出した。

「また会おう、我が子孫よ。決して――馬鹿者に屈するでないぞ」

その瞬間。

僕の意識は、またしても遠のいた。



「スっ……! アリオス!!」

レイの泣き声で目が覚めた。

うっすら目を開けると、寝転がる僕にひたすら泣きじゃくっているお姫様。

相当に心配してたんだろうな。

目がかなり腫れている。

「レイ……? ここは……?」

どうやら、レミラの研究所に戻ったようだな。周囲には見覚えのある光景が広がっている。

「アリオス! 無事なの! 無事なのね!?」

「ああ。どこも大事ない」

「……っ! よかったぁ……!」

「お、おいっ! ふがふが……」

そうして抱きついてくるレイに、僕は呼吸ができなくなった。おい、ものすごい勢いで押しつけられてるぞ。

「……にしても、不思議な現象じゃ」

そう呟くのは、凄腕の魔導具師レミラ。腕を組み、なにかを考え込むように二の句を継げる。

「アリオス殿。もしかして、意識が別次元に飛ばされてはおらんかったか?」

「別次元……」

言い得て妙だな。

たしかにあの現象は、まったく未知の空間に飛ばされたに等しいが……

「ううむ。神の遺石……なかなか興味深い……」

――レミラが呟いた、その瞬間。

ジリジリジリジリ!!

ふいに大きな機械音が響きわたり、僕たちは肩を竦めた。

これは……通信機器か。

レミラが王都に住んでいたときに開発した魔導具で、遠方にいる者とも通話ができる優れ物だ。

……まあ、あまり普及されていないので、ギルドなどの施設にのみ置かれている状況だが。

「はい。こちらレミラ……」

レミラが受話器を手に取る。

「なんじゃアルトロか。アリオス殿ならもう来ておる――なんじゃと?」

レミラがふいに眉をひそめる。

「わかった。すぐに伝えよう」

そう言って深刻な表情で通話を切ったレミラに、僕は心なしか嫌な予感を覚えた。

「アリオス。緊急事態じゃ。ラスタール村にダドリー・クレイスが現れた模様。あなたの召使い――メアリーが危ないとのことじゃ」

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