★
「ここは……?」
目覚めたとき、僕はやはり見慣れぬ場所にいた。
王城……? だろうか。
けれども、現代のアルセウス王城とはどこか違う。装飾の配置も微妙に異なっているような。
加えて、一緒にいたはずのレイやレミアもいない。
その代わりに――またも彼(・)がいた。絶対に会えるはずのない、初代剣聖ファルアス・マクバが。
「女神よ……どうですか。やはり避けられぬ運命ですかな」
「ええ。人の子ではさすがに不可能でしょう」
そう返答するのが、驚くべき美貌を備えた女性。心なしか、彼女の周囲を儚げな光が包んでいる。
というか、女神って……
嘘だろ?
おとぎ話に登場する、女神ディエスのことか?
「ま、致し方ありませんね」
女神と呼ばれた女性はどこか悟った表情で呟く。
「《転生術》は元より禁忌の術。それに手を染めるくらいならば、後世の子に未来を託すのが妥当でしょう」
「後世の子……。やはり、私の子孫ですか」
「ええ。あなたには猛き剣士の血が流れています。それを受け継ぐ子孫も、必ずや才に恵まれるでしょう」
「《チートコード操作》……でしたか。理(ことわり)を超えた力を与えるからには、精神的に熟した者である必要がありますな」
「ええ。ですからこのスキルを授けるのは、マクバ家で最も精神的に優れた者に限定します」
「……そうですな。《剣聖》の名をいいように扱う馬鹿者が現れんとも限りません」
そして女神はなんと、僕のほうへとくるりと振り向いた。
その表情は、どこか物憂げで。
「ふふ……。数千年後には、この光景をあなたの子孫が見ていることになるんですね。私には、あなた(・・・)がどんな名前なのかもわからない」
「あの」
意を決して問うてみる。
「すみません。……僕のことが見えているんですか?」
だが返事はない。
やはり僕は《映像》だけを見せられているようだ。数千年前、女神と初代剣聖がつくりあげた謎のやり取りを――
そして……数秒後。
女神は、そっと僕に向けて手を伸ばす。
「ファルアスの子よ。あなたは現在、きっと苦難を強いられているでしょう。ファルアスの子にも関わらず、授けられたのは前例のないスキル。周囲からはガッカリされたかもしれません」
「っ…………」
痛いところを突かれた。
「でも、覚えていてください。あなたは誰よりも素敵で……誰よりも強いのだと」
「ふふ、では私からも一言」
初代剣聖ファルアスも、僕の瞳をしっかり見据えた。
「我が子孫よ。おまえはきっと、いままで足掻き苦しんできただろう。だが忘れるな。おまえには――私たちがついている」
なんだろう。
僕のことは見えていないはずなのに、心を込めて訴えてくるような……
ほろり、と。
僕の瞳を一筋の滴が伝う。
実家を追放されたことで傷ついた心が、すこしだけ癒された気がした。
「あともうひとつ」
言いながら、ファルアスが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「我が子孫よ。もし親族に不当な扱いをされたのであれば、思いっきり叩きのめしてしまえ! そのほうが当人のためにもなる」
はは。
思いっきりか。
もうマクバ家とは関わりを持たないと決めたけれど……まあ、悪名高いダドリーのことだからな。今後、なにをしてくるかもわからない。
You are reading story Oi, Hazure Sukiru da to Omowareteita “Chiito Koodo Soosa” ga Bakemono Sugiran da ga at novel35.com
「私からもひとつ」
女神も僕に向けて口を開いた。
「あなたは今頃、謎の宝石について悩んでおられるでしょう。ですがそれはあなたが持っていてください。あなたが持っていれば、原則(・・)は暴発しないはずです」
……そうなのか。
たしかに、さっき暴発したときはレミアが持っていたからな。
少なくとも、昨晩では何事も起こらなかった。
……というか、すごいな。
この二人、僕の道に応じてヒントをくれてるのか。女神と初代剣聖――その名は伊達ではない。
だが、いつまでもこの時間は続かない様子。
女神は切なそうに、見えていないであろう僕を見つめた。
「……そろそろ時間切れですね。幸運を祈っています。あなたの道に、幸あらんことを」
「なあに大丈夫でしょう。私の血を引いているのですぞ」
ファルアスは快活に笑い、同じく見えていないはずの僕に片腕を差し出した。
「また会おう、我が子孫よ。決して――馬鹿者に屈するでないぞ」
その瞬間。
僕の意識は、またしても遠のいた。
★
「スっ……! アリオス!!」
レイの泣き声で目が覚めた。
うっすら目を開けると、寝転がる僕にひたすら泣きじゃくっているお姫様。
相当に心配してたんだろうな。
目がかなり腫れている。
「レイ……? ここは……?」
どうやら、レミラの研究所に戻ったようだな。周囲には見覚えのある光景が広がっている。
「アリオス! 無事なの! 無事なのね!?」
「ああ。どこも大事ない」
「……っ! よかったぁ……!」
「お、おいっ! ふがふが……」
そうして抱きついてくるレイに、僕は呼吸ができなくなった。おい、ものすごい勢いで押しつけられてるぞ。
「……にしても、不思議な現象じゃ」
そう呟くのは、凄腕の魔導具師レミラ。腕を組み、なにかを考え込むように二の句を継げる。
「アリオス殿。もしかして、意識が別次元に飛ばされてはおらんかったか?」
「別次元……」
言い得て妙だな。
たしかにあの現象は、まったく未知の空間に飛ばされたに等しいが……
「ううむ。神の遺石……なかなか興味深い……」
――レミラが呟いた、その瞬間。
ジリジリジリジリ!!
ふいに大きな機械音が響きわたり、僕たちは肩を竦めた。
これは……通信機器か。
レミラが王都に住んでいたときに開発した魔導具で、遠方にいる者とも通話ができる優れ物だ。
……まあ、あまり普及されていないので、ギルドなどの施設にのみ置かれている状況だが。
「はい。こちらレミラ……」
レミラが受話器を手に取る。
「なんじゃアルトロか。アリオス殿ならもう来ておる――なんじゃと?」
レミラがふいに眉をひそめる。
「わかった。すぐに伝えよう」
そう言って深刻な表情で通話を切ったレミラに、僕は心なしか嫌な予感を覚えた。
「アリオス。緊急事態じゃ。ラスタール村にダドリー・クレイスが現れた模様。あなたの召使い――メアリーが危ないとのことじゃ」
You can find story with these keywords:
Oi, Hazure Sukiru da to Omowareteita “Chiito Koodo Soosa” ga Bakemono Sugiran da ga,
Read Oi, Hazure Sukiru da to Omowareteita “Chiito Koodo Soosa” ga Bakemono Sugiran da ga,
Oi, Hazure Sukiru da to Omowareteita “Chiito Koodo Soosa” ga Bakemono Sugiran da ga novel,
Oi, Hazure Sukiru da to Omowareteita “Chiito Koodo Soosa” ga Bakemono Sugiran da ga book,
Oi, Hazure Sukiru da to Omowareteita “Chiito Koodo Soosa” ga Bakemono Sugiran da ga story,
Oi, Hazure Sukiru da to Omowareteita “Chiito Koodo Soosa” ga Bakemono Sugiran da ga full,
Oi, Hazure Sukiru da to Omowareteita “Chiito Koodo Soosa” ga Bakemono Sugiran da ga Latest Chapter