「っと……?」
ふと僕は自身を見下ろす。
――透けてきているな。
ジャックとの戦闘前よりも、格段に身体の濃度が下がっている。
そういえば、微妙に意識もぼんやりするな。うまく表現できないけれど、意識そのものが別次元に戻されそうな感覚である。
「時間切れか……」
本当はもっと近辺を探索してみたかったんだけどな。
アルセウス救済党――すなわち国内屈指のテロ組織は、あろうことか王城に拠点を構えていた。
組織の諸々を知るためにも、できれば潜入しておきたかったんだが。
「ま、仕方ないか……」
拠点を知れただけでも良しとしよう。国が総出をあげても見つからなかったようだからな。
「アリオス……化け物め……」
そう言いながら気を失うジャックを確認し、僕の意識はぷつりと途切れた。
★
「……っと」
そして再び覚醒したとき、僕は見覚えのある場所に佇んでいた。
大物領主、ユーフェアス・アルド。
その屋敷内だ。
「アリオス!!」
「わわっ!」
ふいに抱きついてくるのは幼馴染みのお姫様――レイミラ・リィ・アルセウスだ。
毎度のことながら、感触がやばすぎるんですが。
「お、おい! 急になにを……!」
「心配したの!! いきなりピクリとも動かなくなって……!」
「ピクリとも……?」
そうか。
僕の意識が王城にあった間、肉体は置いてけぼりだったからな。
ジャックは肉体にも意識があったようだけど、僕はさっき初めて思念体を飛ばしたばかり。
いろいろと慣れとか必要なのかもしれないな。知らんけど。
「おい、大丈夫さ。心配するな」
「だ、だって……」
そう言ってうるうるとした瞳で見上げてくるお姫様。
可愛い……と言いかけたのを、すんでのところで我慢する。
「はあ、本当にあの子は……」
「むー……」
諦観したように呟くカヤと、ちょっと寂しそうに親指を噛むエム。
「イヤー、モテモテデスネ! アリオス様!!」
そんな妙なテンションで突っかかってくるのは、僕の眷属たる古代平気――ウィーンだ。
「モテル男ハ違ウネ! ヨッ、アルセウス一(いち)!」
うっざ。
僕は古代兵器の頭部っぽい箇所にチョップをかます。
「スミマセン調子乗リマシタ二度トヤリマセン」
「まあ、別にそんな怒ってないけどさ。……そんなことより、ジャックの思念体はどうした? いないみたいだが」
「ジャックナラ消エマシタ。アリオス様ノ意識ガ飛バサレタノト同時二」
「おまえは……」
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ふざけているようで、さすが抜け目ないな。
僕の意識が飛んでいたことをしっかり把握している。
このあたりは古代兵器のなせる技ってところかな。
「ま、なにはともあれ、これで安心できるか……」
ジャックは肉体と思念体とで意識を切り離せていたが、それでも僕との戦闘ではそこまでの余裕がなかったのかもな。
「意識が飛ばされた……? アリオス、どういうこと……?」
なおも抱きついたまま問いかけてくるレイに、僕は真顔で答える。
「さっきまでジャックと戦ってたんだ。意識上で」
「意識上で!?」
「ついに剣も魔法も使わずに勝利するように!?」
みんなから総ツッコミが入った。
んー、どう説明すればいいのか。
ちょっと難しいな。
「……まあ、わかりやすく言えば、《原理破壊》のスキルでジャックのいる場所に転移したってことさ」
「…………」
お互いに目を見合わす一同。
「いまの説明で理解できた……?」
「いえ、全然……」
「もはや人間を辞めてるね……」
おい、好き放題言われてるんだが。
僕だって王城に行けたのは一か八かの試しだったしね。
本当に転移できるとは思わなかった。
だからこそ説明が難しいってのもある。
「こほん」
僕は咳払いをかますと、話題を無理やり元に戻した。
「ふざけてる場合じゃないんだ。ジャックは無事倒せたが……思いもよらないことが判明してね」
そこで僕は、アルセウス救済党の拠点が王城であったことをみんなに告白した。
そして、多くの人造人間(ホムンクルス)が存在していたこと。
奴らの目的が、党名通りアルセウス王国の救済にあること。
それらの事実を、僕は包み隠さず伝えた。ここにいるメンバーはみんな信用できるからね。
「そう……王城に……」
一番衝撃を受けていたのは、やはり王族たるレイミラだ。
「レイファー兄様……本当に、なんてことを……」
「本当にひどい連中です……!!」
エムも憤懣(ふんまん)やるかたないといった様子だ。
そりゃそうだよな。
まだ全容はわかっていないけれど、エムは奴らのいう救済のために生み出されたのだから。
「どうやら、思った以上に大きな事件になりそうね……」
ため息混じりに呟いたカヤに、レイはやや気落ちしながらも明るい表情で言った。
「でも大丈夫よ。たしかに闇の深そうな事件だけど……アリオスがいるもの」
「ふふ、それもそうね」
「圧倒的ナ安心感デスネ」
おい、そこで納得するな。
――ともあれ、こんなところで長話はできない。
かくして、僕たちはいったん撤収することにしたのだった。
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