Play with Mad Scientists!

Chapter 1288: 1288 7


Background
Font
Font size
22px
Width
100%
LINE-HEIGHT
180%
← Prev Chapter Next Chapter →

B月1日 15:55

その日、睦月はある人物に会いに行った。

「あはっ、咲、久しぶりぃ」

「おひさ」

その少女の実家にまでわざわざ訪ねた睦月は、相手が微笑んで出迎えてくれたので、内心ほっとしていた。

「遠慮せずもっと連絡してくれてもいいし、会いに来てくれてもいいんだぞ。私は貴女のこと恨んでいるけど、嫌いきれてもいないから」

相変わらずの淡々とした喋りで、武村咲は言った。しかし口調はともかくとして、この言葉が本心であることは睦月にもわかる。

睦月はかつて、咲の姉を殺めている。咲もそれを知っているが、睦月の事情も汲んだうえで、睦月に同情もしているし、許したいという気持ちもあった。

「うん、でも……」

「後ろめたいか? 辛いか? じゃあ姉を殺した罰としてもっと遊びに来い」

冗談半分本気半分で言う咲。

「今日はまあ……遊びに来たわけじゃあないんだよねえ。電話でも前もって言ったとおり」

アルラウネに寄生された人間が狙われている話は、睦月から先にも話した。

「純子からも連絡あった?」

「ああ。警戒しろと言われたよ。一応警戒はしているけどな」

「そっか。でも一人じゃあ危険だよ」

咲は花びらを出し、付着させた相手の、時間の流れる感覚を狂わせるという能力を持っている。かなり凄い能力ではあるが、それでも一人にさせておくのは心配な睦月であった。

「少しの間、避難していてくれないかなあ。俺の家に。俺がずっとボディーガードするんでもいいけど、俺自身も狙われているしねえ。ていうか、襲われたよ」

「そう言われても、私にも学校があるんだぞ。学校で襲ってくるほどイカれた奴等なのか? それなら登校も控えておくけど」

睦月の要請に、咲は困り顔になる。

「学校かあ……いいなあ」

「羨ましいなら今からでも通ったらどうだ?」

「勉強は嫌いなんだよねえ。学校の雰囲気には憧れてるけどさあ」

先の提案に、睦月は肩をすくめた。

その後、咲は睦月を家の中に招きいれ、茶を淹れて改めて話をする。

「しかし今度は私が前の睦月みたいだね。誰かに狙われる立場になるなんてさ」

「俺はこれで三回目だよぉ。いい加減慣れてきそうだ。あはは」

「口で言われただけじゃ、実感は沸かないけどさ。その狙っているのが何者かはわかっているの?」

「それが同じアルラウネの宿主ってこと以外、さっぱりさぁ。明日にでも純子の所に行って、直接聞いてみようとは思っているけど」

「明日か……」

眉根を寄せ、難渋を示す咲。

「私は明日、部活の大会があって、どうしても外せないんだ」

「部活って何?」

「カーリング部」

「車……? 高校生で車乗っていい部?」

「違う。こういうのよ」

ホログラフィー・ディスプレイを開いて動画を見せて、どんなスポーツか教える咲。

「あはっ、楽しそうだねえ、投げてる人はさ。床を掃いてる人とかは楽しいのぉ?」

「役割は交代するし、奥の深いスポーツだし、馬鹿にするような発言はやめてな?」

「ごめん……そんなつもりはなかったよ」

「スィープィング――氷を磨くのは、ストーンとベブル……氷の摩擦の調整よ。これで飛距離を伸ばすことが出来るし、位置の調整もできる」

「そうなのかあ」

まるで興味を抱けない睦月であったが、咲は真剣なようなので、もう触れないようにすることにした。

「それじゃあ俺と亜希子の二人で行っておくかな……。何だか純子は電話しても上の空っぽいんだけどねえ。自分のマウス達がピンチだってのにさあ」

自分の興味優先にするという純子の困った性質を考えると、百合の方がずっと信用できると、睦月は真面目に思う。

***

You are reading story Play with Mad Scientists! at novel35.com

B月4日 11:23

享命会が根城としているお屋敷の居間。

来夢、克彦、憲三、久美の十代組は、自然と四人一緒にいるようになっていた。そこに弥生子も加えた五名で、のんびりとしている。

「久美は美香が好きなの?」

昨夜録画しておいた月那美香出演の歌番組を視始めた久美に、来夢が声をかける。

「うん、大ファンっ。月那美香の歌も好きだけど、あの徹底してポジティヴで気合いが入ってて筋の通った性格、もう、大大大好きっ。ああいう風になりたいと思って、お手本にしてる所もある」

明るい表情かつ弾んだ声で、美香への想いを語る久美を視て、来夢は思いっきり鼻白む。

「そんなにいいもんじゃないから……。鬱陶しいし」

「何よ。私の女神の美香をディスると、例え年下でも許さないよっ」

ケチをつけた来夢に、久美は険悪な形相になった。美少女ではあるが、顔が少しキツめな造りをしているので、怒るとかなり怖いと、憲三は傍で見ていて思う。

「女神なんて、そんないいものじゃない。ただの空気読めないうるさい女だから。何度注意しても頭に入らないし」

「こいつーっ、まだ言うか……って、月那美香のこと知ってるの!?」

来夢の言葉を聞いて怒りかけた久美だが、途中で仰天へと変わった。

「ちょくちょく顔合わせてる。あんまり顔合わせたくもないけど」

(ちょっとちょっと来夢。それ言っちゃっていいのか? こっちの素性バレちゃうかもだぞ)

克彦が表情を引きつらせる。

(ていうか、顔合わせたくないと言ってるわりには、闇の安息所で顔合わせる度に、仲良く喧嘩しているけど)

来夢も美香も本気で嫌いあっている仲ではないのは、誰の目から見ても明らかであった。

その時、障子が少し開いて、佐胸が中を覗く。

「何でしょうか?」

それだけですぐに立ち去ろうとした佐胸に、久美が思いきって声をかけた。

「いいや……何でもない。邪魔して悪かった」

気まずそうな顔をして言うと、佐胸は立ち去った。

「ねえ、憲三。佐胸さんてどういう人なの? どうも私達と壁があるみたいなんたけど……。他の信者さんとも喋ってるのを見た事無いし」

「俺もよくわからないんだ。俺とも喋ったことない」

久美が憲三に訊ねるも、憲三から答えが望めなかったので、久美が弥生子の方を向いたその時――

「悪い人には見えない」

来夢が久美の不安や不信を見抜いたかのように、きっぱりと言い切った。

(凄い悪人面だし、目つきも悪いけど、来夢が言うならそうなんだろうな。根拠は不明だけど)

来夢を見ながら克彦は思う。

「漸浄斎さんとは話しているみたいだけど。どうも気になるのよね。弥生子さんは?」

久美が弥生子に声をかける。

「アンナさんとも少し話していましたよ。私とは……事務的なこと以外、ほとんど会話をしたことがないわね。でもね、気持ちはわかるけど、疑うものではないわ。若い子が苦手なのかもしれない。人が旧くなると、若さは眩しさになる」

弥生子も久美が佐胸に不信感を抱いていると見て、やんわりと忠告する。

「嫌いとかそういうんじゃないけどね。暗い人や無口な人だっていたっていいし、そういうの差別するわけじゃないよ。でも何か気になるのよ……」

「仲間を疑うのはよくない」

「そんなことわかってる」

来夢が口にした言葉に、久美は唇を尖らせる。利発ではあるが、どうにも生意気な子だと、久美は来夢を見て思う。

「疑うくらいがいい仲間よ。疑い、相手を知り、そして受け入れてからが、本当の仲間」

弥生子が来夢の方を向いて微笑みながら言った。来夢は目を丸くして驚いている。

「お婆さん、凄い言霊使いだ。俺より上だ。美香に紹介したい。美香は低級言霊使いだから、指導してあげてほしい」

「はいはい」

来夢の要望に、弥生子は穏やかな笑みをたたえたまま頷いた。

「その時には私も同伴させてねっ。美香に会いたいっ」

「はいはい……」

久美の要望に、来夢は露骨に嫌そうに頷いた。

You can find story with these keywords: Play with Mad Scientists!, Read Play with Mad Scientists!, Play with Mad Scientists! novel, Play with Mad Scientists! book, Play with Mad Scientists! story, Play with Mad Scientists! full, Play with Mad Scientists! Latest Chapter


If you find any errors ( broken links, non-standard content, etc.. ), Please let us know < report chapter > so we can fix it as soon as possible.
Back To Top