1
ガイウス一行はテーベを経ってすでに四日、のどかな田園風景が広がる農村地帯を進んでいた。
「坊ちゃま、あそこに町が見えます」
ロデムルは自分たちが進む道の先に、小さな町並みを発見した。
「おっ!本当だ。そろそろ日も落ちそうだし、今日はあの町に泊まろうか?」
「はい。暗くなる前に町があって良うございました。わたくし、先に行って宿を手配して参ります」
言うやロデムルは手綱を返して馬腹を軽く蹴った。
すると馬は鋭く反応してガイウス達の乗る馬の脇をするっとすり抜けた。
次いでロデムルが馬腹を今度は目一杯に力強く蹴りを入れると、馬は一気に加速し、砂埃を巻き上げながら全力で街道を駆けていった。
ガイウスは、ロデムルが乗る馬がはるか遠い町並みに重なるまで見届けると、街道脇にどこまでも広がる黄昏色の景色に視線を移した。
「きれいな景色だね。アベルの村もこんな風景なのかな?」
「うん!バースもここと同じくらいにとってもきれいだよ。田んぼと畑がたくさんあって本当にこの辺の景色と凄い似てるんだ。あっ!あと小さな川が村の真ん中を通って流れてるんだけど、その川の真ん中辺に大っきい水車小屋があるんだ。その水車が回るとね、中にある杵が上下に動くんだ。その杵の下に小麦を置くとね、ギッタンバッタンって打つんだよ。そうやってつかれた小麦粉をかまどでじっくり焼いたパンが、もんのすごお~っくおいしいんだ!」
「へえ!それはぜひ食べてみたいな」
「うん!絶対食べて!」
馬の背に揺られながら二人は笑顔で楽しそうに話し、暮れなずむ田園風景に長い影を落としながら町へと向かっていった。
2
「坊ちゃま、こちらでございます」
ロデムルが街道沿いの小さな宿屋の前に立ち、ガイウスたちが来るのを待っていた。
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「粗末な建物でございますが、この町には宿屋はこの一軒しかないそうですので、どうかこちらの宿でご容赦ください」
ロデムルは二人を馬から下ろしつつ、そう釈明した。
「なに言ってんの。充分だよ」
ガイウスは笑顔で朗らかに言った。
「はっ。恐縮でございます。ではこちらへ」
そう言ってロデムルは二人を先導して宿屋へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
大変に愛想の良い、さぞやかつては美人であったであろう中年女性が恭しく三人を出迎えた。
「遠路はるばる大変でございましたでしょう。どうぞごゆっくりしていってくださいね」
「お世話になります」
ガイウスは丁寧に頭を下げて挨拶をした。
するとアベルもガイウスにならい、見よう見まねで深々とお辞儀をして挨拶をするのだった。
「え~と、お世話になります」
アベルの仕草は大変に可愛らしいものであり、宿屋の女将は一瞬でそのとりこになってしまったようだった。
「あら~可愛らしい。いらっしゃ~い。ささ、こっちよ」
女将は猫なで声でアベルに話しかけつつ、彼の肩にそっと手をやり、優しく部屋へと導こうとした。
ガイウスはその様子を見てロデムルと顔を見合わせ、次いで共に微笑ましい視線を二人の背中に送るのだった。
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