1
二人が部屋を出てしばらく歩くと、豪華なつくりのシャンデリアが天井からぶら下がり、流麗な造形の大きな螺旋階段が目を引く広大な玄関ホールへとたどり着いた。
そこでガイウスはホッと一息吐いて、ロデムルに語りかけた。
「ふう。本当にちょっと疲れちゃったみたいだ……」
「はい。どうかごゆっくりお休み下さい」
「うん。ロデムルもね」
「はい。わたくしもとりあえず報告の義務だけは果たせたためか、どっと疲れが出てきたようです。旦那様の御許しもあったことですし、少々部屋で休みたいと存じます」
「うん。じゃあまた……」
ガイウスはそう言うと自室へと続く螺旋階段を昇っていった。
ロデムルはそんなガイウスの後姿に一礼すると、翻って玄関ホールを速やかに後にした。
重い足取りでゆっくりと螺旋階段を昇りきり、広く長い廊下をしばらく歩き、ようやく自室の前へと辿り着くと、おもむろにガイウスはドアを開けた。
およそ五ヶ月ぶりに見る自室は以前と何一つ変わらぬ様子であり、ガイウスは何だか訳も判らず、ついフッと笑ってしまっていた。
すると、その足元をでっぷりと越え太った見知らぬ黒猫がするりとすり抜け、ガイウスの部屋の中へと滑り込んでいった。
ガイウスは咄嗟にこの猫は、エメラーダが自分がいない寂しさを紛らわすために飼い始めた猫なのであろうと思い込み、気にせず自らも部屋に入り、後ろ手にドアを閉めたのだった。
そしてすでにガイウスの勉強机に飛び乗って座り込む肥え太った黒猫に近づき、音を立てずにそろりと椅子を引いて座ると、ゆっくり黒猫に向かって右手を差し出し、そのあごを撫でようとした。
「よしよし、いい子だね」
すると突然、その黒猫が口を開いてしゃべり始めた。
「お前、どうやら生まれ変わりのようだな?」
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ガイウスは吃驚仰天して椅子から転げ落ちそうになったのだった。
2
「……なっ!?ね、猫が……しゃべった!?」
ガイウスは驚きのけ反りながらも、ようやくそれだけ言った。
すると黒猫は面倒くさそうな素振りで首を大きく横に振った。
「わしのことはどうでもいいわい。それよりもわしの質問に答えんかい。どうなんだ?お前は転生者なのか?」
「……ど、どうでもいいわけないだろ!?急に猫がしゃべり始めたってのに気にせずにいられるかよ!?」
「ふう。やっぱり面倒じゃったわい……だがまあよい。ならば名乗ってやろう。わしの名は……まあ本名はちと長いので省略するが……エルと言う!」
「……エル……」
「おい、様を付けんか、様を!わしはただの猫ではないのだぞ。よいか聞いて驚け、実はわしはなこの世の全ての猫たちの、王なのじゃ!……どうじゃ驚いたか?」
「……いや、よく判らないんだけど……」
「まったく、お前もロンバルド同様、飲み込みの悪い奴じゃな……」
「ロンバルド?ロンバルドはあんたがしゃべることを知っているのか?」
「……お前、今度はこのわしをあんた呼ばわりしよったな……」
「……いや、じゃあ……エル様……」
「じゃあは余計じゃ、じゃあは!だがまあよい、ロンバルドはこのわしがしゃべることを知っておるわ」
ガイウスはあまりの展開に、軽く眩暈を覚えるのであった。
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