1
「そうか。ではいよいよと言うことだな?」
覚悟を決めた様な顔で言うカルラであったが、アウグロスは笑みを零しながら首を横に振った。
「いや、まだまだ先だ」
肩すかしを食らったカルラは、肩をすくめた。
「そうか……なるほど、色々と面倒臭いようだな?」
「そういうことだ。まだ当分はかかると思ってくれ」
カルラは仕方なさげにもう一度肩をすくめた。
「わかった」
カルラの同意を得、アウグロスが再び歩き出した。
「では参るとしよう」
カルラはその後を無言で追った。
そして階段へと辿り着くと、しっかりとした足取りでゆっくりと上がっていくのであった。
2
「……当分かかると言っていたが、それにしてもまだなのか?」
階段を上り始めてからおよそ五分ほど経った頃、さすがにカルラが重い口を開いて尋ねた。
アウグロスは振り返りもせず答えた。
「まだだな。そうさな……後三十分くらいだろうか」
カルラは思わず目を回した。
「まだそんなに掛かるのか!?……ならば、飛行魔法を使わないか?」
カルラがそこで当然ともいえる提案をした。
するとアウグロスがそこで初めて足を止めて振り返った。
「いや、ここでは魔法は使えない」
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「使えない!?それはどういうことだ?」
「文字通りの意味だ」
「……何故使えないのだ?」
「わからぬ。だがここでは魔法は無効となるのだ。疑うのならばやってみるといい」
アウグロスに言われ、カルラが何かしら念じ始めた。
「では……飛ぶぞ?」
カルラは言うや、わずかに上を見上げた。
だがカルラの足は階段を踏みしめたままであった。
カルラは驚きの表情を浮かべた。
「……どうやら本当のようだな……」
「納得したかね?」
するとカルラが不本意そうに答えた。
「せざるを得んな」
諦念の表情となったカルラに対し、アウグロスが微笑んだ。
「理屈はわからぬが、こればかりは仕方ないのだ。諦めて歩くしかない」
「わかった。で、後三十分くらいだったかな?」
「そうだ。大体だがそれくらいだったと思う」
「そうか……以前とは異なり、身体が若返っていて良かったよ。でなければ身体が悲鳴を上げただろうからな」
カルラは苦笑を漏らしながら言った。
アウグロスはそれに微笑みで返した。
「そうだったな。だがそれはわたしも同じだよ。このガイウス・シュナイダーの若い肉体のおかげで、ずいぶんと楽なものだ」
二人はしばらくの間、共に笑い合うのであった。
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