優しげな笑みを湛えるアスタロトに対し、イリスは何故か不快感を覚えた。
すると突然、奇妙な甲高い声が鳴り響いた。
「うん?……ああ……」
イリスは自らが片手で持つドラゴンの首を、強く握りしめていることに気付き、すぐにその力を緩めた。
アスタロトはその様子も笑みを湛えながら見つめた。
「どうかしたかいイリス?」
イリスは少し苛立った素振りを見せたものの、それを声には出さなかった。
「……いや、何でもない」
「そうか。それならいい。それよりも最後の質問をその可哀想なドラゴンにしたいんだが、いいかね?」
イリスはほんの一瞬だけドラゴンを見た後、すぐにアスタロトに視線を移して言った。
「ああ、かまわんぞ」
アスタロトは笑みを湛えたまま静かにうなずいた。
「そうか。では最後の質問をしよう」
アスタロトはそう言うと、ゆっくりと首を巡らしドラゴンを見た。
そして、優しげな笑みを湛えたままに質問をしたのだった。
「千年竜たちは何処にいる?」
ドラゴンはやはり答えなかった。
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まったく微動だにも身じろぎもせずにいた。
だが対するアスタロトは鷹揚に何度も笑顔でうなずいたのだった。
「そうか。よくわかった。大変だったね?ありがとう」
アスタロトはそうドラゴンに告げると、視線をイリスに移した。
「イリス、君からはこの子に質問があるかい?」
イリスは真顔で首を横に振った。
「いや、特にはない」
「そうか。では離してあげてくれ。もうこの子に聞くこともないのでね」
「そうか。わかった」
イリスはそれだけ言うと、手に込めた力を緩めた。
すると、ドラゴンの首がするするとイリスの手の中をすり抜けていった。
そして自由落下の法則に則り、ドラゴンの子供はマグマの中へとボチャリと音を立てて落ちたのであった。
イリスはマグマの中で身体を巡らし、スイスイと泳ぐドラゴンを確認すると、感心するように言ったのだった。
「ふむ、子供とはいえさすがはドラゴンだな。わたくしのエナジードレインを受けたにも関わらず、もう平気な顔をしてマグマの中を泳いでおる」
するとアスタロトが、イリスに笑いかけながら言ったのだった。
「それはそうだ。彼らはこの地上においては最強の生物なのだからね。それに、このマグマは彼らにとっては水と変わらないのさ」
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