「……ご冗談を、アスタロト様……」
エルはそう言うのが精一杯だった。
アスタロトは視線を外し、漆黒の部屋を眺めながら言った。
「そうかい?総毛立たせるというのは、敵意があったときの行動なんじゃないかい?」
エルは毛を逆立てたままに頭を強く振った。
「いえ!いえいえ!そのようなことは、決して!」
エルは必死に自らの毛を押さえ込もうとした。
だが、やはり上手くはいかなかった。
エルは焦り、全身からとめどなく汗が噴き出した。
「ふうん、まあいいさ。あまり君をいじめても仕方がないしね」
アスタロトはやはりエルとは視線を合わせずに言った。
エルはホッと安堵のため息を発した。
アスタロトはチラリとエルを見た。
そしてニヤリとほくそ笑んだ。
「そんなことより、ガイウスについて話をしよう」
エルは自分に向けられていた矛先が変わったことに飛びついた。
「はい!ガイウスでございますね?どのような話しをいたしましょうか?」
「そうだな……君はガイウスが好きかね?」
意外な問いに、エルが困惑の表情を浮かべた。
「は?……いえ、まあ……そうですね……嫌いではありませんが……」
アスタロトは苦笑を漏らした。
「嫌いじゃないか……では好きではないと?」
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さらなるアスタロトの問いに、エルがさらに困ったような表情となった。
「……いえ、まあ、好きといえば、好きかもしれませんが……」
「それは何だい?照れてでもいるのかい?」
エルはとぼけた顔をした。
「いえ、そういうわけでも……ないですが……」
「そうは見えないがね?」
「そうですか?……まあそういう感じもないではないですが」
アスタロトが再び苦笑した。
「つまり照れているというわけだね?」
するとエルが仕方なく観念した。
「……まあ、そうなりますか」
「そうなるね」
「はあ……ではまあ、そういうことで」
アスタロトは大口を開けて笑った。
「わかった。では好きということでいいね?」
「はあ、まあそうですね」
「素直に言いたくないのかい?」
するとエルが顔を少しだけしかめた。
「それはまあ、なんの拍子に彼奴の耳に入らんともしれませんので……」
「ガイウスの耳に入るか。彼は今、死んでいるんだけどね」
エルは急に思い出したようにアッという顔をした。
「は、そういえばそうでしたな……ですが、復活させてくださるのでしょう?」
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