「臭いがしなければいいというものではない!トイレというだけで気分が悪いのじゃ!」
デルキアは吐き捨てるように言った。
だがガイウスも負けてはいない。
「気分だけの問題なら、見方を変えればいいだけの事じゃないか!」
「だからその気分が変わらないと言っているんだ!ここは何処までいってもトイレなのだからな!」
するとついにガイウスが切れた。
「じゃあ何処だったら良いってんだよ!文句を言うばかりじゃなく、対案を示せよ!対案を!」
「対案だと?!そんなもの、ここ以外だったら何処でもいいわ!」
「そういう漠然としたことじゃなく、もっと具体的に言ってくれよ!」
「ふん!そんなもの、どうせ異次元空間に逃げ込むのだったら、何処だって構わないではないか!」
「そんなことないよ!見つかってから逃げるんじゃなくて、見つかる前に逃げるんだよ!だから衝立のあるこのトイレが絶好の場所なんじゃないか!」
「他の場所だって見つかる前に逃げられるわ!」
「かもしれないけど、確実ってわけじゃないだろ!」
「そんなの、ここだって絶対に確実ってわけじゃないだろうが!」
「だとしても他の場所よりかは確率が高いだろ!」
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言い合いは、両者の息切れによって一旦終息した。
するとその隙を、ドーブがすかさず突いた。
「……ガイウス、閉館時間まではここに居る必要は無いな?」
ガイウスはゼーハーゼーハーと荒い息をしながらも、なんとかドーブの問いに答えた。
「……まあね」
するとガイウスの返答を受け、ドーブがすかさず言った。
「……では閉館時間までは何処か別の場所で時間を潰し、閉館時間となったらここへ隠れ込み、警備員をやり過ごしたら、また出ればよい。ここに居る時間は、恐らくは三十分から一時間といったところだろう」
するとだいぶ息を整えたガイウスが素早く答えた。
「そうだね。そんなものだと思うよ」
「……うむ」
ドーブは力強くうなずくと、厳しめの表情でもってデルキアを見た。
「……デルキア様、いかがでしょう、わずかの間、我慢していただけないでしょうか?」
ドーブの有無を言わさぬ圧倒的迫力に、さしものデルキアも気圧された。
「……わかった。仕方あるまい。短い間だけなら、それでいい……」
デルキアはそれだけ言うと、口を尖らせ、そっぽを向いたのであった。
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