「まったく!あんな阿呆と一緒にしおって……たしかに奴とは双子なだけに顔は似ているであろうが、よく見ればわたしの方が何十倍も可愛いであろうに……」
カリンはバスンッと勢いよく跳び込むように椅子に座ると、思いっきりふんぞり返ってぶつくさと文句をひとしきり垂れた。
ガイウスは半目となって頬を引きつらせながら小声で同じようにぶつくさと文句を垂れた。
「……双子の見分けなんかすぐにつくわけないだろうに……それに何十倍も可愛いってなんだよ……なにを基準にしてどんな尺度で何十倍可愛いっていうんだよ……っていうか双子なんだからどう考えたって大した差なんかあるわけないだろうが……」
するとカリンは器用に耳をピクンと動かし、ガイウスのささやき声に見事に反応をした。
「あんた地獄耳って言葉があるの知ってる?それはね、あんたの目の前のこの可愛らしい耳のことなのよ~っだ!」
カリンは自らの耳を右手の人差し指と親指でもって軽くつまみながら、殺気が漂う恐ろしげな表情でもってガイウスに向けて言い放った。
だがそこへ突然、天から降って沸いたような厳かでいてとても穏やかな声が広大な大広間全体へ静かに鳴り響いた。
「……カリン、もうその辺にしてやってはくれまいか?……」
その実に優しいそよ風のような声音に、カリンはピクリと大きく反応した。
「アスタロト様!」
ガイウスはその予想通りな名前がカリンの口から漏れ出でたため、顔も心も充分に引き締めてその者の登場を待った。
するとほどなくして、ガイウスがこの地獄めぐりの終着駅と定めた男がその姿を現したのであった。
「……アスタロト……か?……」
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ガイウスの眼前には、この世のものとは到底思えぬ見目麗しいたおやかな男が、かすかな微笑を湛えながら静けさの中に佇んでいた。
「……やあ、久しぶりだね。たしか君は、今生ではガイウス・シュナイダーと名乗っているのだったね?」
アスタロトは優しげな微笑を終始振りまきながらガイウスに語りかけた。
するとガイウスは、自らの記憶の中のアスタロトと、今目の前に佇んでいるアスタロトとを照合しつつ、慎重に受け答えをしようと心の中で決め込んでいた。
「……ああ、その通りだ。今生での俺の名前はガイウス・シュナイダーで間違いないよ……」
「そうか……ガイウス……と呼んでも?」
「ああ、いいよ。その代わりといってはなんだけど、俺もあんたのことはアスタロトって呼ぶよ?」
「ああ、もちろん構わないさ……我がいにしえの懐かしき友よ……」
アスタロトは絶えず微笑みながら鷹揚にうなずいた。
「……友か……やっぱり俺たちは前世で友と呼ぶべき間柄だったんだな?」
「ああ、とても親しい……そう、親友と呼べる間柄であったといえるだろうね」
「……そうなのか……ごめん、俺にははっきりとした記憶はないんだ。ただぼんやりとした記憶……というかイメージのようなものだけはあるんだけど……」
「……ああ、わかっている。だから君は気にしなくていい」
アスタロトはそう言うと、本当に親しみのこもった暖かな笑顔をガイウスに向けるのだった。
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