1
「……この僕にも勝てると?」
ルキフェルは笑みを絶やさず、さも愉快そうに言った。
「さすがに無理だと?」
だがガイウスもまた、にやりと笑みを湛えたままであった。
「……ふむ。面白いね。ならば一度やってみるかい?」
「いいだろう!」
ガイウスが裂帛の気合を込めて言い捨てると、放出しているオーラの量が激しく増大した。
だがルキフェルは至極冷静であった。
そして非常にゆっくりとした動作で右掌をガイウスに向けてかざすと、かすかに、ほんのかすかに人差し指をくいっと曲げたのだった。
すると途端にガイウスの身体が凄まじい勢いで後方に吹き飛んだ。
ガイウスは後背にあった壁に背中から激突し、次いで後頭部をしたたかに壁に打ち付けた。
「ぐっ!!……くぅ……」
ガイウスはうめき声を上げながら壁に沿ってゆっくりと崩れ落ちていき、ついに膝を屈して床の上に倒れ伏した。
ガイウスの後頭部からはおびただしい量の血が流れ出し、うつぶせに倒れ伏すガイウスの顔に幾筋も流れ落ちていた。
そしてその内の一筋がガイウスの目の中に流れ込み、ガイウスの視線は真っ赤に染め上げられた。
ガイウスは赤いフィルターのかかった景色の中に、おぼろげながらルキフェルの姿を認めると、おもわず呪詛の言葉を口にするのだった。
「……くっ!……この……くそったれが…………」
そしてガイウスは薄れゆく意識の中で、たしかにルキフェルの言葉を聞いたのだった。
「……残念だったね。君はいつも僕を殺そうとするけど、今世においてもどうやらそれは叶わないようだね……僕としては出来ればいつかの時のように君と思う存分語り合いたいと思っているんだけどね……」
ルキフェルはそこで一旦言葉を区切り、ふと上を見上げて記憶を思い起こすような仕草をした。
「そう、あの時……君が古代タミール人を率いてメリッサ大陸全土を制圧し、原初皇帝と呼ばれた……あの時のように……ね」
2
「……ガイウス!……おいガイウス!……」
ガイウスがぼんやりとした意識の中でまどろんでいると、しきりにそれを阻害し、呼び覚まそうとする声が聞こえてきた。
ガイウスは面倒くさそうに薄目を開けて、その顔を確認した。
「……なんだよ……マックスか……」
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するとマックスは少々憤慨した素振りを見せた。
「なんだよとはなんだよ!お前が変なところで寝ているから心配して起こしてやったというのに!」
ガイウスは寝ぼけ眼を擦りながら周囲を見渡すと、そこは学校のグランド脇の芝生の上であった。
「……俺はなんでこんなところで?…………はっ!!ルキフェル!!!」
ガイウスは咄嗟に立ち上がり、周囲を見回して警戒しだした。
だがそこは、遠くの方で学生たちの嬌声が聞こえるのどかな学園風景であり、恐るべきルキフェルの姿はどこにも見られなかった。
するとそんなガイウスの奇妙な行動に、マックスがさすがに心配しだした。
「……大丈夫かお前?……っていうかお前、頭怪我してるぞ!?」
マックスの慌てた様子にガイウスは思わず右手で後頭部を触った。
「……あ、ああ。大丈夫。血は固まってるから……」
「なにかあったのか?」
「……い、いやあちょっと……壁に頭ぶつけちゃったもんで……」
「医務室行ったほうがいいんじゃないか?」
「……そうだな。ちょっと行ってくる」
「俺も行くよ」
マックスが心配そうな顔で言った。
するとその時、芝生の脇の茂みがゆさゆさと大きく揺れた。
「……ああ、いやいいよ。大丈夫。一人で行けるさ」
「そうか?……いや、でも……」
すると遠くの方でマックスを呼ぶクラスメートの声が聞こえてきた。
「ほら、呼んでるぞ?俺は大丈夫だから、行けよ」
「うん……わかった。じゃあちゃんと医務室行けよ?」
「ああ、大丈夫。ちゃんと行くよ」
マックスはガイウスの確りした受け答えに安心したのか大きく一度うなずくと、一目散にクラスメートの元へと駆けていった。
ガイウスはそれを見届けると、先ほど大きく揺れた茂みを見て言った。
「エル、いるんだろ?出てこいよ」
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