「ち、ちょっと……君、ガイウス君……」
ダルムは、ずんずんとレノンの執務室へと突き進むガイウスを背後から追いかけ、慌てた様子ながらも周囲の目を気にしてか小声でささやくように声をかけた。
だがガイウスの歩みは止まらず、カッカッと小気味よい足音を立ててレノンの執務室の前へと到着した。
するとガイウスは両足をそろえて立ち止まり、振り返って慌てふためくダルムと顔を突き合わせた。
「大丈夫だよ。ほら、みんな仕事に忙しくてこちらに注意なんて向けてないから」
言われてダルムが振り返って見ると、ガイウスが言う通り、周囲の者たちは忙しく立ち働いており、ダルムたちに注意を向けている者など皆無であった。
「……あ、ああ……そうみたいだね……」
「でしょ?そういうわけだから、とっとと中へ入りましょう」
ガイウスはそう言うと振り返った首を戻し、ダルムには見えないようにわずかにほくそ笑んだ。
(エル直伝の空気になる魔法だよ~ん。以前はこの手の魔法は不得手だったけど、リミッター解除以降は問題なく使えるようになったんだよね~といっても時間制限はあるんだけどね……っていうかそろそろ切れる頃合かも……)
ガイウスは途端に慌てた様子でドアノブをひねると、素早く扉を開けて中へと滑り込んだ。
だがダルムはそれでも上司の執務室に無断で入ることに抵抗があったのか扉の前で躊躇していたため、ガイウスは部屋の中から手を伸ばしてダルムの腕を強く掴むと、力一杯引いてダルムを執務室内へと引きずり込んだのであった。
「……まったく……往生際が悪いっていうか……いいかげん腹を決めてよ」
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ガイウスの苦情に、ダルムは困ったような顔付きとなった。
「……そ、そんなことをいわれても……こんなことをしてもしもばれたりなんかしたら……」
「ばれやしないよ。レノンは今ヴァレンティン共和国にいるんでしょ?だったら大丈夫だよ」
「……まあそうだとは思うんだけど……あれっ?レノン司教がヴァレンティン共和国にいることをなんで知っているの?」
ダルムの疑問にガイウスは一瞬ぎょっとした顔を見せたものの、瞬時に強引に押し切ることに決めたのだった。
「えっ?……い、いやだってそれはさっきダルムさんが言ったじゃない!」
「……そ、そうだっけ?……」
「そうだよ!ダルムさんが言ったんだよ。だからに決まってるじゃないか!」
「……そ、そうだよね……」
「そう!そうだよ!以上、問題なし!」
ガイウスは勢いよく言葉を切り、強引に会話を終わらせた。
その後ダルムはいぶかしい顔付きとなってしばらくの間しきりに首をひねっていたものの、ガイウスは素知らぬ顔をして白を切りとおしたのであった。
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