「それでは始めましょう。ジスト君いいかね?」
カルミスに言われ、ジストは大きく頷いた。
するとそれを見てカルミスも軽く頷き、次いでベッドの上のガンツへとおもむろに向き直った。
「では行きますよ」
カルミスは、仰向けに寝ているガンツの左の横顔の辺りにゆっくりと手のひらをかざすと、ゆったりとした口調で呪文を唱えるように言葉を発した。
「ではいつものように力を抜いて目を閉じて……そう、いいですよ。何も考えずに頭の中を空っぽに……」
するとカルミスの反対側にいたジストがガンツの右の横顔のあたりに両手をかざし始めた。
するとやがてジストとカルミスのかざした手の間を、ほんのりとした青い波のようなものが浮かび始めた。
青い波はガンツの頭を通り抜けながら、砂浜に寄せるさざ波のようにふんわりと波打ちながらベッドの上を漂っていた。
「そのまま……そのまま力を抜いて……何も考えずに身を任せて……そうです……いいですよ……」
カルミスは、その後も穏やかに絶えず語りかけた。
そしておよそ五分ほどの時が経過すると、カルミスはようやくかざした手を下ろすのであった。
「……ようやく眠りに落ちたようだな?」
「はい。そのようです」
「では第二段階といこう」
「はい。承知しました」
二人は短い文言でのやり取りを終えると、またもやガンツの頭に手をかざし始めた。
「ではやるぞ?」
「はい。どうぞ」
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すると二人のかざす手の間に、またもや波が浮かび上がった。
だが波は先ほどとは多少異なり、先ほどのほんのりとした青からだいぶ黒ずんだ色合いとなっていた。
「……見えるかね?」
「……いえ、まだなにも……」
二人は先ほどとは異なり、目を瞑りながら言葉を交わしていた。
「……これでどうかね?」
「……い、いえ……まだ……見えません……」
「……そうか……ではもう少し探り場所を変えてみよう……」
「はい……すみません……」
「いやなに、君が謝る事ではない……」
「……はい……」
そんな二人のやり取りを、ガイウスは首を傾げながら見つめていた。
(……あれで記憶を呼び覚まそうとしているのか?……あの黒い波みたいな奴は一体なんの波形なんだろう?……エルならあれがなにか分かるのかもしれないが、俺じゃあちょっとわからないな……さてそれはともかく、このあとどうするか……ガイウス・シュナイダー見参!とばかりに出て行ってカルミスと戦うか、それともこの場を離れて一旦城の中へ潜入して他の親衛隊員たちのところへ行くか……さてどっちがいいか……)
ガイウスが逡巡していると、突然その背後から声が聞こえた。
「……久しぶりではないか……まつろわぬ者よ……」
ガイウスは振り返ると同時に反射的に後方へ大きく飛び退った。
そして自らの背後に音もなく忍び寄った者の顔をまじまじと見ると、忌々しそうにその名を口にするのだった。
「……シグナス……久しぶりだな……」
シグナスはおもむろに頭部を覆うフードを外すと、その皺くちゃの顔を白日の下に晒し、口角を上げてにやりとかすかに微笑むのであった。
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