ガイウスが驚き、慌てて振り返ったそこには、かつてダロス王国の古都テーベの地下水路で死闘を繰り広げた最上級悪魔の巨体が漂っていた。
「グラシャ=ラボラス!!」
ガイウスは叫ぶや、瞬時に自らの体にオーラを纏わせた。
「……逃げたと思ったらこんなところに湧き出やがって……いるんだろシグナス!出てこい!今更俺になんの用事だ!?」
すると、翼の生えた巨犬のようなグラシャ=ラボラスの下の空間が、突如としてゆらゆらと揺らめきだした。
そしてそこから、ガイウスにとってはもはやお馴染みの皺くちゃ顔が現れたのであった。
「……一つ思い出したことがあってな。こちらで待ち受けていたのだよ」
「……シグナス……何を思い出したんだ?言ってみろ」
「そうさな……いつぞやメノンティウスが言うていたことがある。お前の記憶には鍵がかかっているはずだ……とな」
「……それがどうした?そんなことは俺が一番よく知っているよ」
「さもありなん。お前自身の事柄だからな。だがな、実はその鍵……もしかするとわしに心当たりがあるかもしれん……と思ってな?」
「なに!?……本当か?」
「かもしれん……と言うたまでじゃ。絶対に間違いなく、というわけではない」
ガイウスはグラシャ=ラボラスに対する警戒をしつつ、シグナスに向かってゆっくりと歩き始めた。
「……言ってみろ。その心当たりとやらを言ってみろ」
するとシグナスは突然大声で笑いだした。
ガイウスは驚き、その歩を止めた。
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「なにがおかしい?シグナス」
「いや、すまんな。記憶の鍵の話となるとお前が途端に焦りだすのが面白くてな……いや、すまんな」
「ちっ!ふざけてるのかお前……」
「そうではない。だがやはりお前にとって記憶とは……最重要要件であるようだな?」
「当然だろう。普通記憶を奪われたら、誰だって必死に取り返そうとするに決まっている」
「まあな。だがお前の場合、どうもその普通よりも少々必死なような気がするのだが?」
「何が言いたいのか全然判らないぞシグナス!お前一体ここへ何しに来たんだ!?」
するとシグナスが、歪に口をひん曲げて笑った。
「……とりあえずグラシャ=ラボラスと闘ってはくれまいか?」
「……はあ?まったく意味がわからないぞ?なんだ?お前何の目的があって……」
ガイウスが言い終えるより早く、グラシャ=ラボラスの巨体が動いた。
「ちょっ!いきなりかよ!」
グラシャ=ラボラスはその大きな口を開いたかと思うと、中から激しく燃え盛る炎をガイウス目掛けて吐き出した。
ガイウスは瞬時に右方向にオーラを爆発させて飛び、その炎を回避した。
「くそっ!なんだってんだ一体!」
ガイウスは愚痴りながらも両手を青く染め上げ、強烈な氷結瀑布(ブレイズフォール)を瞬く間に繰り出すのであった。
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