「いや、これは実に勉強になった。外から見ているとローエングリン教皇国の国家体制は磐石そのものに見えたが、内情は実はそうではなかったのだな……」
シェスターの感想にアジオが大きくうなずいた。
「よっぽどヴァレンティン共和国の方が磐石なんじゃないですかね?」
するとシェスターがかぶりを振ってそれを否定した。
「いや、たとえヴァレンティンの政治に腐敗が全くなかったとしても、ローエングリンとはそもそもの国力が違いすぎる。もし仮になんらかの理由で突然ヴァレンティンとローエングリンが戦争状態に突入したならば、ものの一週間も持たずに我らは滅ぼされてしまうだろう。そんなものは磐石の態勢とは到底言えまいよ……」
シェスターはそう言うと目を細めて遥か遠くを見晴らした。
そして愛する母国が常に大国の驚異にさらされていることを改めて痛感し、陰鬱な気分となった。
そのためシェスターは気を取り直そうと話題を変えた。
「……ところでバルトはコメットのお付の者ということだが……」
するとアジオがこの話題に、餌に飛びつく魚のようにパクッと食いついた。
「はいはいはい。前時代的で面白いでしょう?まるで昔話に出てくる、お姫様に付き従うじいやみたいで」
「……いや、別に面白がって聞いている訳では……」
「あっ、これは失言だったかな?いや、でも僕も別にバルトを馬鹿にして言っている訳じゃないんですよ?ただ最近では珍しいタイプなんでね」
「ああ、たしかに最近ではあまり目にしない古風なタイプのようだな」
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「あっ、それいいな。そうか、古風って言えば良かったのか。よし、今度からは古風って言うようにしよう。古風なバルト。うん、いい感じだな……で、その古風なバルトの何を聞きたいんですか?」
アジオの独り言の後の直球な質問に、シェスターは苦笑した。
「いや、別段取り立てて聞きたいことがある訳ではないが……そうだな。コメットが幼少の頃から付いているのかな?それこそじいやの様に」
するとアジオが肩をすくめながら答えた。
「僕が彼らと知り合ったのは親衛隊に入ってからだから、それまでのことはあまり詳しくないんですけど、たしかコメットが生まれた時からのお付きだって話しじゃなかったかな……」
「そうか。ならばじいやという言い方は正しいという訳だな」
「まっ、そうですね。ただ、身の回りの世話とかをするためじゃなく、剣術の指導や、警護が主たる目的みたいですけどね」
シェスターは軽く後ろを振り返り、少し離れてコメットを守護するように歩くバルトの無骨そうな風貌を見て、納得したようにうなずいた。
「なるほど。つまりはお付の武官という訳か」
「ええ、まあそんな感じです」
だがここでシェスターが少し考える素振りを見せた。
「どうかしましたか?」
アジオがそれに気付き尋ねると、シェスターは訝しそうな顔をして問うたのであった。
「たしかフラン元大司教はコメットを嫌っていたのだよな?ならば、誰がバルトをお付きの武官として雇い入れたんだ?」
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