「ユノーについてはこの辺にしておこうか。本筋とはまったく異なる話なのでな」
シェスターが落ち着いた静かな口調でそう言うと、アジオが少し残念そうな顔つきとなった。
「そうですか……もっと色々とユノーについてのお話しをシェスターさんから直々にお聞きしたかったところですが、ま、確かに本筋とは関係ありませんからね。仕方ないですが話しを元に戻すとしましょうか」
アジオが渋々といった様子ながらも、話しを元に戻すことに同意したため、すかさずシェスターが話しの軌道修正をした。
「つまり君が言いたかったことは、メルバはユノーとの貿易によって裕福となったため、バルトを雇うことが可能になったのでは、ということだな?」
「ええ、簡単に言えばそういうことです」
「確かに候補の一人ではあるな……だがそれだけでは判定は出来まい?」
「まあ、ね。ですからあくまでこれは僕の予想に過ぎませんけどね。ただ、他に候補は見当たらないんですよ。まったくね。なので僕はほとんど確信しているっていうわけなんです」
アジオはそう言うとチラリと当のバルトを見た。
だがバルトは微動だにせず腕を組み、口を真一文字に引き結んでいたのであった。
「ふむ。どうかなバルト?アジオは庶子の長子、メルバこそが君の雇い主ではないかと言っているが?」
シェスターが単刀直入にバルトへと問うた。
するとバルトはおもむろに組んでいた腕もほどき、重い口を静かに開き始めたのだった。
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「……想像するのは何人にとっても自由なことなれば、お好きにされるがよろしかろうと存ずる」
バルトはそれだけ言うと、再び腕を組んで瞑目し、じっと静かに押し黙ってしまった。
そのためシェスターはアジオと顔を合わせて肩をすくめたのだった。
「ふむ……アジオよ、どうやらバルトはこれ以上話す気がないらしい。なのでここは一旦話しを変えようと思うのだが、どうだろうか?」
「ええ、結構ですよ。これ以上問い詰めたところでバルトが口を開くとも思えませんしね……とは言ってもこれ以上話すことがあるわけではないのですが……」
「ふむ。ということはもう他に君たちには秘密はないと言うのだね?」
「ええ、そのとおりです。これで秘密は打ち止めになります」
アジオはそう言うと両手を広げて得意の肩をすくめるポーズをした。
「ふうむ……なるほど、よく判った。しかしそれにしてもずい分と厄介な面倒事を背負い込んだ者たちがわたしのチームに入り込んできたものだな?これは果たして狙ってしたことなのかな?それとも偶然か?」
「いやいやいやいや、もちろん偶然ですよ。偶然。チーム分けの際、もたもたしていたために残り物となった我らが、シェスターさんのチームに偶然組み込まれただけで狙ってそうなった訳ではありませんよ。いや本当ですってこれは(・・・)」
するとシェスターが思わず吹き出し気味に言った。
「これは(・・・)本当だと言ったな?ではやはりこれまでの話しの中には嘘を練りこんであるということだな?」
そう言うとシェスターはニヤリと微笑みながら、素知らぬ顔を決め込むアジオをじっと見つめるのであった。
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