「……超大国の傲慢ですか……それは本当に恐ろしいものとなりましょうな?」
ロデムルが眉根を寄せて険しい顔つきとなって言った。
するとシェスターが大いにうなずいた。
「うむ。しかもその傲慢の矛先が我がヴァレンティン共和国に向いたらば……そう思うと背筋が凍り、次いで全身の血液が沸騰するというものだろうよ」
「はい……そればかりは何卒御免被りたいところでございますね……」
「ああ、本当にな……」
シェスターは薄ら寒い思いを胸に、美しく彩られた天窓のステンドグラスを見上げた。
するとようやくこの建物へ来た当初の目的を思い出したのだった。
「さてロデムル、聞き込みを開始しようじゃないか」
シェスターに言われ、ロデムルも当初の目的を思い出したらしく、わずかに頬を緩ませて応えた。
「はい。そうでした。では手分けをして聞き込みを開始しましょうか?」
「いや、見る限り書架の数は膨大だが、人の数は少ないようだ。手分けせずともすぐに済むだろうし、二人一組でいいだろう」
「承知致しました。では……あちらの男性からでどうでしょうか?」
ロデムルは最も近くの書架に大量の古文書を整理して収めようとしている三十前後の男性を右手で指し示した。
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「ふむ。どうやらこの古文書館の職員のようだな。よし、彼にしよう」
シェスターは決断するや足早に歩を進め、瞬く間に男性の元へとたどり着いた。
「お仕事中に失礼する。少々尋ねたいことがあるのだが……」
シェスターが丁寧な物言いで話しかけると、男は目をキラキラと輝かせ、息せき切って早口で応じた。
「はい!何でしょう?どのようなご要件でしょうか?あ、もしかしたらこの棚の古文書を読まれたいのですか?いや申し訳ありません!もうしばらくお待ちいただけませんか?実はまだこの棚をどう整理するか思案中でして……あっ!もしかしてすでに読みたい古文書が判っていらっしゃる?それならば古文書のタイトルか、もしくは整理番号を仰って頂ければすぐに探し出しますが?」
男は早口であまりにも早合点なことを独りよがりにまくし立てた。
シェスターはロデムルと顔を見合わせひとしきり苦笑を漏らすと、男に向き直って改めて用向きを言った。
「いや、そうではないんだ。実は六日前のことなんだが、この古文書館を二人の美女が訪ねて来なかっただろうか?」
すると男はキラキラした目をさらに輝かせ、先程よりもさらに早口でまくし立てた。
「来ました!来ました!黒髪ロングの美女二人でしょ?赤一色に身を包んだ女性と、もう一人は青一色で、どちらもそりゃあ美しかったのをよく覚えていますよ!」
男はそこで一旦言葉を区切ると、何かを思い出したような顔つきとなった。
そしてすぐさま、またも早口で一気にまくし立てたのであった。
「そうそう!そうしたら白一色のこれまた黒髪ロングの美女が現れて三人組になったんですよ!……あ、そう言えば他にも男が二人いたっけな?……」
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