髑髏の上に薄皮を貼り付けたような恐るべき相貌が、漆黒の闇の中に不気味に浮かび上がった。
「……来たか……レノン!……」
シェスターは思わずそう呟いた。
だがレノンは檻の中のシェスターたちには一瞥もくれず、目の前でオロオロとうろたえる哀れなる小人をじっと睨みつけていた。
「……我が命に背かんとは……リボーよ、お前もか……」
レノンは至極冷静な口調でありつつも、その中に静かなる怒りを含ませながらリボーを問い詰めた。
するとリボーは恐れのためか、後ろに一歩、また一歩と徐々に後退りしながらも、なんとかレノンの許しを請わんと弁解を試みた。
「……レノン様、誤解でございます……わたくしは何もあなた様の命に背くつもりなど……まったく……」
リボーは震える声でそう抗弁するも、その足はまた一歩、二歩と少しずつゆっくりと後退していた。
しかしついにリボーの足は、ロンバルドたちが囚われている檻にガチャンと音を立てて踵が触れてしまった。
リボーは驚きつつ一瞬足元を確認すると、再び自らの眼前に迫る恐るべき容貌の男を凝視した。
「……いや、レノン様……わたくしは背くつもりなど毛頭……」
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リボーの弁解をそれまで大人しく扉の外で暗闇と同化しながら聞いていたレノンは、そこでゆっくりと静かに動き出し、一歩、また一歩とリボーに向かって近づいていった。
「リボーよ。言い訳はよい。わたしはこの耳で、お前の言葉を聞いたのだぞ?」
「……い、いや、それは……言葉のあやと申しますもので……決して本心では……」
「本心?お前の本心などどうでもよい。所詮誰も他人の心を見通すことなど出来はしないのだからな。故に重要なのは言葉だ。そして客観的事実だ。お前は今確かにわたしの目の前でわたしの命に背くと宣言した。理由はどうあれ……だ」
「……い、いやちょっと待ってくださいレノン様。確かにわたしは先程レノン様の命に背くと申しました。しかしそれは物の弾みにございます。つい、この者らに乗せられてのことにございます。本心からではございません」
「だから本心などどうでもよいと言うておるだろう?重要なのはお前がわたしの命に背くと言った言葉なのだ。お前が誰に乗せられようと、唆されようとそのようなことは関係ない。お前はそういう状況になれば、わたしの命に従わない男なのだと今確かに宣言したのだ。重要なのはそこだ。なぜならばわたしにとって必要なのは、いかなる場合においてもわたしの命を金科玉条のものとして絶対的に付き従う者だけなのだからな」
レノンの冷徹極まる言葉に、リボーは膝から崩折れた。
「……レノン様……どうか……どうかお許し下さい……」
「リボーよ。どうやらお前にはわたしの部下としての覚悟が足りないようだな?」
レノンはそう言うと、自らの薄い上唇の端をめくるように上げてニヤリと笑った。
そして地べたに腰を落として震えるリボーを、侮蔑の表情でもって冷たく見下ろすのであった。
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