1
「ともかく、この話しはこれまでといたしましょう。それにこれ以上貴方方とお話しすることもございませんので、わたくしはこれにて一旦下がらせていただきます」
レノンはそう言って深々と頭を下げた。
そしておもむろに上げたその顔には、薄ら寒い笑顔が張り付いていたのだった。
「そう言わずにもう少し話していかないか?」
シェスターは駄目で元々と話しを向けた。
だが案の定レノンの答えは冷たいものであった。
「いえ、これ以上お話しすることはありませんので……ではこれにて失礼……」
レノンは言葉の途中でもう振り返り、最後の言葉は背中越しであった。
そしてそのまま静かにゆっくりと扉に向かって歩を進めて行った。
シェスターはこれ以上どう呼びかけたところでレノンは振り向くまいと悟り、無言でその背を見送ることとした。
そしてしばらくしてレノンの姿が扉の向こうに消えていくのを確認すると、シェスターはおもむろにロンバルドに対して話しかけたのであった。
「……副長官、どうやらその若く精悍な顔付きの男が今回のキーマンのようです」
するとロンバルドが力強くうなずいた。
シェスターは、ロンバルドと同意見であったことを確認して自らも大きくうなずいた。
そしてまだ見ぬ、謎の若い男の正体を想い、虚空を睨むのであった。
2
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レノンが退場してより三十分ほどが経った頃、空気を吐き出すような音を立てて扉がゆっくりと開いた。
そして扉の向こうから再びシグナスがその姿を現したのであった。
「……シグナス、先程の話しの続きでもしに戻ったのか?」
シェスターが軽口気味に言葉をかけた。
だがシグナスはわずかに口角を上げてにやりとするも、特に口を開くことなくゆっくりとシェスターたちから五Mほど離れたところにある壁際のソファーへと腰を下ろした。
「……ずいぶん疲れた様子だな?どうやらこのドームを動かすのはさしもの大魔導師であっても大仕事と見える」
するとシグナスがソファーに身体を預けながら、静かにゆっくりと口を開いた。
「……まあそうだな。これ程の質量ともなるとさすがに一苦労なのでな……」
「そういえば千年竜はどうした?先程はなにやら不完全な形で地面に横たわっていたが……」
「……ああ、奴は一旦子供に戻した。人間の子供の姿にな」
「そうか。ならば今このドームの中にいるんだな?」
「……ああ、そうだ。おそらくはあちらの扉の向こうで、すやすやと眠っていることであろうな」
シグナスは自らが入ってきた扉とは反対方向にある扉を顎で指し示した。
シェスターはその方角を見やり、眉根を寄せた。
「……そうか。あの扉の向こうに千年竜が眠っているのか……あの恐るべき巨竜が……」
シェスターはあの忌まわしきエスタの情景を思い出し、密かに戦慄して軽く武者震いするのであった。
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