「……お話はお済みになられましたでしょうか?シェスター様……」
静かな歩様で玄関ロビーに姿を現したシェスターに、ロデムルが落ち着いた声音でもって問いかけた。
「……ああ、ナスリとアベルにもな……」
「そうですか……ありがとう存じます……」
「いや、礼を言われることではない。それよりも奥方様のご様子はどうか?」
「はい。大分落ち着かれたご様子にございます」
「そうか、それはよかった。ところで君にも苦労をかけることになるが、もとよりシュナイダー家の一切は君に預けられているも同然だ。これからもよろしく頼む」
「は。心して……して、今後はどうされるおつもりですか?」
「ああ、元親衛隊の皆のほとんどはナスリに預かってもらった。彼は快く引き受けてくれたよ」
「そうですか。彼は実に有能でございますので、あれくらいの人数でございましたら何の問題もないことでしょう……ですが、ほとんどと仰ったと言うことは連れて行かれる者たちもいるということですね?」
「ああ、コメットたちを連れていく」
するとロデムルの顔がキュッと引き締まった。
「……なるほど。では財宝探しに出られるので?」
するとシェスターが軽く驚いた表情を見せた。
「……よく判ったな?その通りだが……」
「いえ、わたくし自身もこのところ、コメット様の身をいかにして守らんとするかを考えておりましたれば……」
「なるほど。考えることは同じ……というわけか」
「はい。守ることが難しいとなれば、守る理由を無くせばよいのではないか……そう愚行いたしておりました」
「そうだな。その通りだ。守る理由を無くする旅に出ようと思う」
「左様でございましたか。もう彼らには話しをされたのですか?」
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「いや、これからだ。彼らの所へ案内してくれるかな?」
「かしこまりました。どうぞこちらへ……」
ロデムルは優美な動きで踵を返すと、シェスターを導きながら歩き出した。
そして二人は広大なシュナイダー家をかなりの時間を要しながら横断し、コメットたちにあてがわれた一室へと辿り着いた。
「こちらでございます」
ロデムルがコメットたちの部屋を指し示しながら言った。
シェスターはうなずき、礼を言った。
するとロデムルが実に優雅な動きで一礼して、静かに立ち去っていった。
シェスターはその背を見送り、件の部屋のドアをおもむろに開いた。
「……あ、シェスターさん……」
ドアを開けて入ってきたシェスターを、ほとんど目の前で驚いた表情で出迎えたのはコメットであった。
シェスターはうなずくことでコメットに返事をすると、すぐに口を開いて用件を言った。
「アジオとトラン。それにバルトはいるかな?」
「あ、はい……あ、いえ、今この部屋にはいません……呼んできますか?」
シェスターはうなずきながら言った。
「ああ、頼む。君たちに重要な話があるのでな」
「あ、はい!では呼んできます!ちょっと待ってて下さい」
コメットは言うなり慌てて部屋を飛び出していった。
シェスターはゆっくりとした動作で手近なソファーに腰掛けると、落ち着いた様子でしばし彼らの到着を待つのであった。
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